こんにちは、漫画部・部長のmatsuyamaです。
先月、「東京ヒゴロ」という漫画の最終巻3巻が発売されました。
私はこの作品がとても大好きで、単行本を待てずに掲載雑誌を購読していました。ひとつの作品が目当てで雑誌を買い始めるのは、私にとっては珍しい出来事でした。
連載が終了したのは残念でしたが、終わり方が綺麗で素晴らしかったので満足でした。
以前、弊社会長の松井と話していて、藤子不二雄Ⓐの「まんが道」を始めとし、漫画家や漫画制作を描いた漫画には面白いものが多いよね、という話題になったことがありました。自分の体験や身近にいる関係者の話を元にすることで、よりリアルで心を打つような作品が生み出されるのでしょう。
今回のブログでは東京ヒゴロの完結を記念して、私の好きな漫画家漫画・漫画制作漫画を挙げて行こうと思います。
※注意:各漫画のネタバレを含む内容となります※
東京ヒゴロ / 松本大洋
まずは前述の、東京ヒゴロから紹介します。
漫画の編集者であった主人公・塩澤は、自分の立ち上げた漫画雑誌の廃刊を機に出版社を辞めます。一度は漫画から遠ざかろうとするものの思い止まり、自費出版での漫画雑誌編纂を目指す……といったストーリーです。
塩澤は様々な事情を抱えた作家達(多くは既に筆を置いた作家)に原稿を依頼します。長年塩澤と仕事をしてきた低迷中の現役作家、商業主義に迎合した漫画業界に厭気が差したと断るもの、依頼を受けて主婦業の傍らに執筆を再開するもの、等々。
そして、生真面目で実直な塩澤の態度や行動が、ときに人の心を動かしてゆきます。
例えば、漫画を辞め、ドライブインで働く岩田カエル。電話では執筆を断られた塩澤ですが、冬の秋田へと直接カエルを尋ねに行きます。カエルは「着いた早々悪いけれど」と親戚の家の雪下ろしに向かい、塩澤は雪下ろしを手伝います。作業を終えてラーメン屋に入る二人。
カエル「悪ィな、こったな物で。わざわざ東京から来でもらってんなさ。」
塩澤「いえ、大変あたたまります。カエルさんと雪の屋根に上りラーメンを食べて…
東京ヒゴロ/松本大洋 より
私の人生にとても良い思い出ができました。」
秋田くんだりまできていきなり雪下ろしを手伝わされて、中々言えるセリフではないですね。
そして塩澤は、嫌がるあなたに無理矢理ペンを持たせたいとは思わない、しかし私はあなたの不器用な漫画を好きで、あなたの漫画を私のような読者の元へまた届けたかった……と語ります。
作品全体を通して、しっとりと落ち着きのある雰囲気の漫画です。
G戦場ヘヴンズドア / 日本橋ヨヲコ
有名漫画家を父に持つ町蔵と編集長を父に持つ鉄男の高校生2人が出会い、協力して漫画を描き始めるが、やがてお互いへの葛藤を抱きつつ別々に漫画を描くようになり……という青春漫画です。
私が強く印象に残っているのは、町蔵の父・堺田大蔵と鉄男の父・阿久田鉄人との打ち合わせでのやり取りです。
打ち合わせと言っても、場所は映画館。阿久田は上映中に私語を行ったカップルを「死ね」と罵倒した上で、以下のように語ります。
阿久田「…悲しいものだな。
G戦場ヘヴンズドア/日本橋ヨヲコ より
素晴らしい作品ほど、巧妙に必然の産物だと見せかける。
それを奇跡とも知らず当然のように消費する。さっきの観客のようにな。」
優れた作品は様々な努力を行っているけれど、努力を観客(=読者)に感じさせない。あくまで自然にそのように仕上がったのだと感じさせる、と。
これを受けて堺田は、
堺田「…私はそれでいいと思っています。
G戦場ヘヴンズドア/日本橋ヨヲコ より
誰かに読んでもらえるなら、あの販売機のようでも。」
と、自動販売機を見やりながら答えます。
努力の跡を知ってもらう必要なんてない、ただ作品を楽しんでもらえさえすれば、あとは打ち捨てられてしまっても構わない。
これは相当な境地だと思います。
私はこの堺田のセリフから、スガシカオの「ヒットチャートをかけぬけろ」という曲を思い起こします。
ぼくのいやしき魂よ ヒットチャートをはしりぬけ
ヒットチャートをかけぬけろ/スガシカオ より
君の明日にとどくがいい いつの日か消えてしまってもいい
ひととき誰かに届いたなら、後は忘れ去られたっていい。堺田の信念に通ずるものを感じます。
我の強い町蔵はそんな父親の姿には気が付かず反発していたのですが、他人を思いやり”自分を殺す”ことに秀でた鉄男と出会い、変わってゆきます。
クセが強く、人を選ぶかも知れませんが、熱い漫画です。
ブラック・ジャック創作秘話 / 宮崎克・吉本浩二
「ブラック・ジャック」の作者であり、”マンガの神様”とも呼ばれる手塚治虫の創作エピソードを、元スタッフ・編集者などのインタビューを元に描いた漫画です。
アメリカから日本へ電話で指示を出して漫画の背景を描かせる驚異的なエピソードや、漫画連載の傍らでアニメ制作を行う過酷な現場など、信じられないような話が続きます。
また時代ならではなのでしょう、ちょっと倫理的にはどうなのかと思われる話も沢山出てきます。
――『ブラック・ジャック』にまつわる壁村編集長の思い出をお願いします。
松谷 山ほどありますよ。ある時、先生の体調が悪かったので
「医者に診てもらったらどうです?」と勧めたんですよ。
原稿が遅れるので壁さんにも電話で相談したら、
「ふざけんじゃねーっ、医者になんかかかったら、
病気だって言われるに決まってるだろ!!」って(笑)――いろいろと問題ありますね(笑)
ブラック・ジャック創作秘話/宮崎克・吉本浩二 巻末インタビューより
秋津 / 室井大資
いい加減で打算的で締め切りを守らない漫画家・秋津と、いつも父に振り回される子・いらかの父子2人の物語です。
雑誌連載当時に読んだときは「この親父は本当に酷いな」と思って好きになれなかった作品だったのですが、年を取ってから読み直すと、秋津のどうしようもなさに笑えるようになりました。
秋津がカルチャースクールの漫画講師を引き受たときのこと。
生徒の中に比佐子さんというおばあさんがいて、秋津に「こんなババアが生徒で驚いたでしょ」と
言うと、秋津は「否めないっす!」と答えます。酷い。で、とある日のやり取りがこちら。
比佐子「秋津先生!! あたしのことジャンプの編集者に紹介していただけましたか?」
秋津「だからムリだって比佐子さん
秋津/室井大資 より
志の高さと電池の残りが反比例しすぎだっつうんだよ」
酷いけどキレのあるセリフですね。
他のシーンで、秋津がいらかへの誕生日プレゼントに、悪ふざけで園芸用の土をあげて完全に無視されるのを見て、やっぱりプレゼントは本人が喜ぶものを贈るべきだなぁと思いました。
ヤコとポコ / 水沢悦子
少女漫画家のヤコと猫型ロボアシスタントのポコが、日々漫画を制作しながら淡々と暮らしている様子を描いた作品です。
ほのぼのとした雰囲気でコミカルに話は進みますが、漫画家・作家としての矜持であったり、
作品へのこだわりについて語られるシーンが多いです。
下記は、とても優れた漫画を描くものの、自分の漫画は全て自分で描きたいからロボアシには手伝わせない、そのため月刊連載はできない、というランとの会話。
ラン「自分の絵がこの世で一番好きです
私にしか描けない背景があるし 私にしか引けない線がある
だから私の漫画は背景の隅々まで 私が描かなければならないのです」ヤコ「でも 読者はそんなこと気にして読んでませんよ?」
ラン「私だって私の漫画の読者です 私が許さない」
ヤコとポコ/水沢悦子 より
ポコはストーリー全体を通して「ゆっこペン」というペンを集め続けます。これは、思い出の色とペンの色が一緒だと幸せになれるという触れ込みで売られていた、今では販売されていないペンです。ポコはゆっこペンを見つけてきてはヤコに見せて、思い出の色と一致しないか尋ねます。
ある時、「はじめてプレゼントしてもらったリボン色」のゆっこペンを手に入れるのですが、ヤコがリボンをもらったことがないと聞くと、ポコはこんなことを言います。
ポコ「ボクはあるから!!
もし同じ色だったら幸せになれる!!」ポコ「大丈夫!! ボクが幸せなのは
ヤコとポコ/水沢悦子 より
ヤコが幸せになる事だから!!」
ポコはヤコからもらったリボンをいつも首に付けているから、つまりリボンをもらったことがあるんですね。こうしてポコはヤコの幸せを願い、なんとか思い出の色と一致するペンを見つけようとします。
他にも様々な作家とロボが登場し、ポコをはじめとするロボ達はそれぞれの主人を支えます。その姿が健気で良いです。
他にもいろいろ
他にも、漫画部で部費購入している「これ描いて死ね/とよ田みのる」、昨今大きな話題になった「ルックバック/藤本タツキ」、ジャンプでジャンプ漫画の制作をテーマに連載した「バクマン。/大場つぐみ・小畑健」、「かくかくしかじか/東村アキコ」、「RiN/ハロルド作石」、「編集王/土田世紀」、「重版出来!/松田奈緒子」などなど……
好きな作品は多々あるのですが、今回は特に思い入れのある作品・もうちょっとみんなに知られてもいいんじゃないかなと思う作品を取り上げてみました。
ちなみに写真の漫画棚は、無料の自動販売機の隣にあります。
インフィニットループに入社すれば、自販機の飲み物を無料で飲みながら漫画を読めちゃいます!
俺にとって……漫画喫茶に来ているようなモンだよ……
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